布施茂氏インタビュー
 
車とともに住む家
 

この「平田の家」ではクライアントのご要望がはっきりしていて、車のアルファ・ロメオが大好きなので、車を眺めながら生活する、車と一緒に住むというのがご要望でした。それから北向きだけれど、明るい家というのも柱でした。

私も車が好きなので、クライアントの車が好きという気持ちがとてもよくわかるし、自分だったらこうしたいな、というのが当初からありました。私の設計はいろんなシーンを作りたいということがあって、視線の「抜け」ですとか、その中の各スペースの関係性といったものを大事にしてスタディします。どの場所にいても常に車、ガレージの空間を意識できるということと、私がこれまで作ってきた建築の質、考えてきたものがぴったり合っていて、自分の中の建築のテーマとご要望というのが合致した事例だと思います。

ぱっと見るととても閉鎖的な住宅に見えるのですけれども、実際は視線の「抜け」があちこちにあります。それからガレージとリビングの間にガラスのパーテーションがあるのですけれども、それは店舗用の強化ガラスだけで仕切れる。今くらいの季節だと寒いので仕切って、中間期からは完全にオープンにする。その可変性もできるだけ思い切ってやりたいというこちらの考えと、クライアントの思い切りのよさがぴったり合った。やはり車に対しての思いが中途半端じゃないということが、やっていてとても気持ちよかったところですね。


撮影:上田宏

内と外の曖昧な空間を作りたい
 

体験していただくと分かるのですが、「平田の家」はシチュエーションによって中になったり外になったりというのが同時に起こりえる。私自身、そういう内部と外部が曖昧な空間に惹かれます。「平田の家」では、室内から通行人が見えるくらいの緊張感のある生活を1ヶ月くらい送られていましたね。今は見ようと思えば見えるくらいの飛散防止フィルムを貼って隠して、気配は分かるけれども、詳細はわからないという状態で住んでいます。

その中で防水というものを外部に対して当然やらなければならないんですけれども、「平田の家」では、FRPを断熱材で覆って、さらに外に出るテラスに関してはデッキでカバーしてやっています。それで20年くらいはもつのではないでしょうか。通常、FRPも紫外線が一番の劣化要因なので、トップコートにしっかりした材料をもってきてやるか、今回のようにデッキで保護するか、という方法をとります。室内の床からできるだけフラットな状態で床を敷くことによって、室内の延長として外部空間を押さえることが出来る。今回のデッキは再生木なので、普通の木に比べて、色落ちなども大分ゆっくりですし、見た目の劣化は少ないですね。働き幅が広いのできれいですし、防水層を保護する意味でもとてもいいですね。


空間の質とディテール
 

第一工房では公共建築を中心にコンクリートと金属とガラスという大きく3つの材料を中心に勉強させてもらいました。ですから、住宅を設計する上で完全に特注は難しくても、住宅のディテールよりも一歩進めつつ、コストのバランスをとりながらデザインすることを考えられるようになっていると思います。

私は、建築のシークエンスが大事だと思っているので、空間を移動するという体験がとても大事なんです。ですから階段のデザインはとても重要なのですが、「平田の家」の階段のガラスも、実際に測って発注しました。機能とデザインのバランスをどうするかを調整してやることで、住まい手に長く気持ちよく住んでいただきたいと思っています。そのための納まりはこだわって作っています。空間に漂う緊張感というか、凛とした空気感のような、空間の質はそういうものの積み重ねで決まっていると思いますね。


撮影:上田宏

メーカーが支える建築の力
 

第一工房にいた時から感じていたことですが、特に大きい仕事をしている時にはとてもサブコンの技術力を感じます。建築家の構想を現実化するためには自分以外の人に作ってもらわなければいけない。最終の手は、自分の代わりにやってもらう職人さんであり、その実施の過程を支えていただくサブコンの担当者の方です。こちらの様々な要望に対して、メーカーの技術者さんたちがいろいろ技術的なスタディをされて、その相乗効果がうまく機能している、というのはありますね。その積み重ねで私たちのアイディア通りの建物がすっきりと出来上がる。


クライアントによって建築家も成長する
 

建築というのはかなり社会的な責任も重くて、アイディア通りに実現することはなかなか難しいのですが、そういう意味では「平田の家」は、デザイン的に解放してもらった、かなりやりがいのある仕事でした。その解放のされ方というのはクライアントさんによって違います。というより建築家の常識を超えたことを考えているクライアントさんも多い。でもそれによって、こちらもどんどん考えるというのもあります。そういう意味で、今回のクライアントさんはうまく建築家を使っていたな、と思います。建物って、いろいろ揉まれるほうが最終的によくなるんですよ。そういう真剣なやり取りの中で、建築家も成長するのだと思います。


撮影:上田宏

 ◆ プロフィール

布施 茂 / 一級建築士事務所 fuse-atelier

1960 千葉県生れ
1984 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業
1984 東京工業大学工学部建築学科坂本一成研究室
1985 株式会社第一工房 入社
1996 株式会社第一工房 設計部長
2003 一級建築士事務所fuse-atelier設立
2004 武蔵野美術大学造形学部建築学科助教授
2006 武蔵野美術大学造形学部建築学科教授

日本建築家協会会員 東京建築士会会員

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